2015年11月7日

「オークションへの出品禁止」という注意書きについて

自主制作作品の即売会で買った本の中に、奥付に「無断複製やオークションへの出品は禁止です」等と書かれたものが複数あったけれど、オークションへの出品について「禁止」という書き方をするのは僕には良い考えとは思えない。

まず、「無断複製禁止」について。正当な手段で買った本であっても、作者に無断で複製したら、著作権の一つである複製権の侵害になる。このことは「無断複製禁止」と書いてあってもなくても変わらない。「無断複製禁止」とわざわざ書くのは、無断複製が著作権法で禁止されていることを改めて強調することで、無断複製をしようとしている人を思い留まらせる効果を期待しているのだと思う。「無断転載禁止」とかも同様で、書かなくても禁止されている。

それに対し、オークションへの出品については、作者が禁止する法的な根拠があまりない。正当に買った本をオークションに出品したりオークションで転売したりするのは、法的には買った人の自由であって、作者の許諾が必要な行為ではないからだ。 (正当に受け取ったのではない著作物を勝手に売ったら譲渡権の侵害になるが、正当に受け取った著作物であれば譲渡権の侵害にならない。詳しいことは「譲渡権の消尽」とかで検索してほしい。)

著作権法に規定がなくても、もともと作者が販売するときにオークションへの出品禁止という条件を付けておくことは可能だ (自由契約の原則)。でも、本の奥付に「オークションへの出品は禁止です」と書くだけでそれを買い手が合意した契約内容の一部だと主張することには無理があると思う。本の表紙とかに絶対に見落とす恐れがないくらい目立つように書いてあれば、話は別かもしれないけれど。

だから、本の奥付に「オークションへの出品は禁止です」と書いてあって、その本を買った人が注意書きを守らずオークションに出品し転売したとしても、その人を警察は捕まえてくれないし、自力で見つけ出して訴訟を起こしても裁判で勝てないはず。 (同様に、例えば奥付に「落書き禁止」と書いたって、買った人が本に落書きすることを禁止する法的な効力はない。)

まあただ、仮に注意書きに法的な効力があったって、実際に個人が訴えるのは時間の面でも費用の面でも大変だから、おそらくほとんどの人は泣き寝入りするしかないだろうと思う。そういう意味では、注意書きに法的な効力があるかないかは、もともとどうでもいいのかもしれない。

さて、法的な効力がないなら書く意味がないかというと、そうとは限らない。

本をインターネットオークションで転売する人の中には、作者が転売を望んでいないと知っても構わず転売する人もいるだろうけれど、作者が転売を望んでいないと知ったら転売しない人もいるだろう。後者のタイプの人にとっては、注意書きによって作者の希望がわかれば十分であって、注意書きに法的な効力があるかないかは関係ない。

でも、そういう人に訴えかけるのが目的なら、「禁止」という高飛車な書き方が望ましいかという点は考えてもいいと思う。具体的には、「インターネットオークションへの出品は禁止です」と書くより、例えば「作者からのお願い:インターネットオークションへの出品は避けてくれたら嬉しいな」と書く方が従う気になる人が多いかもね、ということ。知らないけど。

ただ、根本的には、自主制作作品の作者は「自分の本をオークションで売られたくない」という願望を持たない方が幸せになれる気が僕はする。売りたい人と買いたい人がいれば取引が成立する (自由市場) のが現代の (少なくとも先進国での) 原則である以上、「本を作って売りたいけれど、売った後その本が自分の知らないところで取引されるのは嫌」というのは無理筋な望みだと思う。本を売るというのは、本が自分の手を離れて、自分の知らないところで自分の知らない読まれかたをして、自分の知らないところで取引されて、さらに知らない人に読まれ、いずれは自分の知らないところで処分されるというプロセスをスタートする行為なんだと理解した方が現実的だと思う。

まとまりがないけれど、もうこの文章は何か月も書きかけのまま放置していたので、これ以上寝かせずに公開する。